伊藤計劃+円城塔+小川一水・他 『THE FUTURE IS JAPANESE』 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

THE FUTURE IS JAPANESE (Jコレクション)

THE FUTURE IS JAPANESE (Jコレクション)

幽霊は日本語で答える。「すべての道は青木ヶ原に通ず」
メロンのせわしない呼吸が聞こえてくる。どれくらい内容を理解しているのかは判然としない。
「すべてが青木ヶ原に導くなんて聞いたことないわ」
「すべての道は死に向かう、青木ヶ原は死。ゆえにすべての道は青木ヶ原に通ず」

樹海

“爆弾”は東京を全壊した。“爆弾”は日本の歴史を書き換えた。その爆弾というのは、粗悪で、弾道さえろくに描けないような北朝鮮の爆弾だったというのに。
北朝鮮の奇襲攻撃で東京が瓦礫の山と化したため、名古屋が南日本の緊急中枢となった。北日本は札幌を中心に結束した。混乱のなかで、辺鄙な島、対馬は放置された。秘密のエレクトロニクスのなかに。
対馬に最初の海賊の移民がやってきたのは北朝鮮からだった。この哀れな連中は飢えた難民だった。アジアの最新のボートピープルは、アメリカの報復による大量の水爆がもたらした広大な焦土を逃れてきた。北朝鮮難民は、この眠れる小さな観光地の島における法と秩序なるものを、たちまちのうちに呑みこんでしまった。

慈悲観音

「日本」をテーマに,日本と海外の SF 作家が競作した SF アンソロジー.日本作家はともかく,海外作家の方は当たり外れが結構あるような.昔ながらのステレオタイプな日本観は実はそんなに変わっていない,のかな?
日本作家の新作では円城塔「内在天文学がベスト.天文学版「ルミナス」or「暗黒整数」かなあと思ったけど,誰かの言ったという「天文学は衰退しました(仮称)」のほうが確かにずっと通りがいい.どこかほわほわした雰囲気があるのもそれっぽい.
海外作家ではブルース・スターリング「慈悲観音」がいちばん良かった.スターリングの名前を知っているなら,あるいは上の引用部分を読んで興味が出たなら読んでみて損なし.
他の収録作は以下のとおり.地球脱出船に乗った唯一にして,地球最後の日本人の九州での思い出ケン・リュウもののあはれ.別れ話専門の代理人が迷い込んだ先フェリシティ・サヴェージ「別れの音」.巨大ロボットに搭乗し「ゾーン」で戦う日々デイヴィッド・モールズ「地帯兵器コロンビーン」青木ヶ原の樹海で死体から遺品を取って暮らしている女が少女に父親を探してほしいと依頼されるレイチェル・スワースキー「樹海」.強固な AR 時代の詐欺話パット・キャディガン「率直に見れば」小惑星に漂着した山人(ヤマト)の民が直面する異文化ギャップ小川一水「ゴールデンブレッド」.人間の世界と別の世界の半ばにある古紅玉髄の館に住む書家,あるいは筆の話キャサリン・M・ヴァレンテ「ひとつ息をして、ひと筆書く」.北の大地で漁師の殺人事件を追うエカテリーナ・セディア「クジラの肉」.厳しい環境に暮らす山の民が,海の民に出会う菊地秀行「山海民」.NOVA1 からの再録になる大傑作飛浩隆「自生の夢」.トリを飾るのは,伊藤計劃The Indifference Engineの英訳版.