筒井康隆 『ビアンカ・オーバースタディ』 (星海社FICTIONS)

ビアンカ・オーバースタディ (星海社FICTIONS)

ビアンカ・オーバースタディ (星海社FICTIONS)

陰茎が固くなり、大きくなり、反りかえった。わたしはそれを、ゆっくりとしごきはじめた。千原はわたしの顔をじっと見つめたままで、次第に荒くなる鼻息のあい間あい間にうわごとのような、何かわけのわからないことをつぶやきはじめた。
「何だかぞくぞくして。あ。君に恋する気持ちの、湧きあがるこの、砂漠。ずらずらと雪崩のように。跳ぶ。跳ぶ。寂しくて、侘びしくて。原始的な。せつせつとぼくに訴えかけてくるこの何かの。深い深い。一瞬の花。もうあの。この開くような。け」
彼は大きくのけぞった。わたしはここぞとばかり、勢いよく前後にこする。彼は次第に遠い眼になっていく。わたしの眼を覗きこみながら、わたしの顔を見ながら、ほんとはもっと遠いところを見ている眼だ。

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ビアンカ北町は誰もが振り返る超絶美少女.放課後には,二人しかいない生物研究部で好き勝手に実験する日々.人間の精子を観察したいと考えたビアンカは,実験室の前にいつもいる男の子・塩崎から精子を採取することにする.
筒井康隆ライトノベルを書くぞ! ということで話題になった作品がようやく.美少女が精子を採取する話が,あれよあれよと未来の存亡をかけた戦い(サブタイトルをつけるなら「人類はこうして衰退しました」かな)へと発展してゆく.このバカバカしさと爽快感よ.筒井康隆ジュブナイルがあまり好きではないのでどうかなと思っていたのだけど,想像以上に楽しかった.読みあさっていたころを思い出して懐かしい気持ちにもなったり(しばらく遠ざかっていたからだが).
本作はエンタメでもあり「メタラノベ」でもあるということで,ストーリーや描写に揶揄するような部分もかなり多い.いくつかあげると,各章の冒頭がミニマルだったり,後半の戦闘描写が(たいしたことしてないのに)やたら大袈裟だったり.挙げていくだけでライトノベル論が書けそうな勢い.笑いながら読んだのだけど,しかしあとがきで自ら「メタラノベ」と言ってしまうのは格好良くないよなあ.というか筒井康隆に書かせる話かよとも思う.面白かったと同時に,もやもやした思いも正直残った. #太田が悪い