籘真千歳 『スワロウテイル序章/人工処女受胎』 (ハヤカワ文庫JA)

スワロウテイル序章/人工処女受胎 (ハヤカワ文庫JA)

スワロウテイル序章/人工処女受胎 (ハヤカワ文庫JA)

(私たちは、誰かに用意された幸せを黙々と消費する機械なんかじゃない)
だから、まして幸せになるための機械などあってはならないのだ。幸せになるために、一番大事な祈りを手放さなければいけない摂理や概念など、とんだありがた迷惑だ。こんな人間の自己満足のための母性充足の装置など、絶対に存在してはいけない。
(だから、さようなら)
過去か未来か、一緒に溶け合っていた私たち。
(私たちはまたバラバラになるけれど)
それこそが渇望するほどに欲しくて生まれてきた私たち。
(それぞれの命を遂げよう)

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スワロウテイル人工少女販売処』(感想)の前日譚となる連作中篇集.人工妖精(フィギュア)たちが通う全寮制のお嬢さま学園である扶桑看護学園を揚羽が卒業するまでを,「蝶と果実とアフターノエルのポインセチア「蝶と金貨とビフォアレントの雪割草」「蝶と夕桜とラウダーテのセミラミス」「蝶と鉄の華と聖体拝受のハイドレインジア」の四篇で描く.いつものことながら,情報の密度はかなりのもの.自己はどこにあるのかだとか,アシモフの三原則といった古くからあるテーマを,この世界でなければできない,新しくて鋭い切り口で,かつみっしりとした密度で描いている.それでいて,かなり読みやすく感じたのは,中篇集だからというのもあるだろうけど,いわゆる姉妹制度のある女子校が舞台の学園百合小説として読めるからかな.妹分の雪柳や,親友の連理と過ごすバレンタインや文化祭の日々は,嫌味がなくて非常に微笑ましい.だからこそ,あとあとその関係が毒のように効いてくるんだけどね.シリーズ未読のひとは,この本から手に取ってみてもいいかもしれない.良い作品集でした.