陸凡鳥 『武装神姫II STRAY DOGS』 (ガガガ文庫)

武装神姫〈2〉STRAY DOGS (ガガガ文庫)

武装神姫〈2〉STRAY DOGS (ガガガ文庫)

アトラは答えず、まったく違うことを問い返してきた。
「……その充電器(クレイド)は、どなたのですか?」
抑揚なく、彼女は言った。
「私がここに来てすぐ、マスターは新しい充電器を買ってくださいましたね? ずっと変だと思ってました。同じ物があるのにと」
「……他人が使ったベッドで寝るのは嫌かと思ったんだ」
充電器に視線を落としながら、神宮司は答えた。はぐらかしている、と思った。そこに触れてほしくない気持ちと、打ち明けてしまいたい気持ちがせめぎ合い、彼を苦しめる。
アトラはそんな主を前に、辛抱強く待っていた。

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神姫を警備員として運用している民間警備会社JOSから,神姫が一体行方不明になったと通報があった.早々とその行方を突き止めた通称“神姫担当”こと刑事の神宮司八郎だったが,武装したJOSの神姫たちに襲われる.
武装神姫 LOST DAYS』(感想)の半年後を描くノベライズ第二巻.今回もハードボイルド志向のSFミステリ.一巻と同様,刑事とロボット(=神姫)のバディものという,枯れた題材を真摯に解釈し,自分のものにしているのが素晴らしい.ちなみに主人公は30代後半,10代の登場人物は全体を通してひとりしか登場しない.「首輪を返した野良犬」を自称する,八郎の先輩でもある引退した老警官と,半年前のトラウマから神姫に対して距離をつかめないでいる八郎.彼らに付き従う神姫たち.過剰に盛ったテキストもさることながら,彼らの関係の描き出し方がとにかく格好いいんだ.“男伊達(ダンディズム)すら遥かに霞む、野生の波長(フォービズム)。”とか,さらっと使うセンスにしびれる.人間と神姫のバトルは何をしているのかいまいち分かりにくいとか,この作品におけるロボット三原則は『ダークナイト・ライジング』における不殺とほぼ同じレベルだとか,欠点がないわけではないのだけど,すげー良かったです.ノベライズだからと敬遠せず,一巻から読んでみるといいと思うよ.