ボストン・テラン/田口俊樹訳 『暴力の教義』 (新潮文庫)

暴力の教義 (新潮文庫)

暴力の教義 (新潮文庫)

運転台の中に手を伸ばし、ライフルをつかんだ。父親が体を起こして言った。「何をするんだ、ミスター・ルルド?」
ルルドはライフルに弾丸を込めた。
「駄目だ、ミスター・ルルド
ルルドは振り返り、狙いをつけた。太陽が彼の眼を焼いた。が、彼には標的を狙う者の平静があった。
引き金を引くのは自殺行為だとローボーンは断言した。
ルルドは聞いた。見た。そして、撃った。

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1910年.武器を積んだトラックを強奪した殺人者ノーボーンは,合衆国捜査局に捕縛されるが,司法取引によりメキシコへの潜入捜査に協力することになる.共に行くことになるのは若き特別捜査官ジョン・ルルド.ふたりの間には,ある秘密があった.
殺人者の父と捜査官の息子,ただし父は彼が息子であることにまだ気づいてはいない.メキシコ革命前夜を舞台に,ある父子のテキサスからメキシコへの道のりを描くロードノベル.「暴力の詩人ボストン・テラン」とはよく言ったもので,テキストが全編カッコいいだとか詩的を通り越しており,もはやキザといっても過言ではない.役に立たなくなった地図を捨てたり,ドアを通り抜けたりするだけのちょっとした所作を,どうしていちいちそんな格好良く書けるのか.全編通して引用部分のようなカッコ良さで,テキストに気を取られすぎて内容がなかなか頭に入ってこないという未知の体験を味わった.訳出にはかなり苦労したようだけど,むべなるかな.