ますくど 『剣澄む ─TSURUGISM─』 (このライトノベルがすごい!文庫)

剣澄むーTSURUGISMー (このライトノベルがすごい! 文庫)

剣澄むーTSURUGISMー (このライトノベルがすごい! 文庫)

強烈な痛みが、眼球を焼き尽くす。溢れ出た血涙が、視界を埋め、それが消えた頃には、俺は真っ暗闇に取り残されていた。見えない。あらゆる物が黒に染まり、何も、何も見えない。此処に来て、終ぞ、俺の体が壊れてしまったようだ。あぁ、だが、だが、だが、それがどうした。目などいらぬ。あぁ、いらぬさ。この両手に握られた熱が有る。それで十分では無いか。

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上泉,柳生,林崎の御三家のみに佩刀が許されるようになった西暦2020年.父である上泉信明が辻斬りに襲われたとの報せを受けた上泉綱義は,三年ぶりの実家に急ぎ帰ってくる.そこで綱義が対面したのは,ぐるぐる巻きに縛られ札を貼られた少女.見た目10歳ほどのその少女は,自分が千子村正であると名乗る.
なにやら妖刀を受け取ったと思ったら淫乱幼女だったでござる.第3回このライトノベルがすごい!大賞・優秀賞受賞作.辻斬りや刀狩りが跋扈する帝都東京という舞台の話なのに,言葉のひとつひとつにはけれん味より真摯さのほうが強い印象がある.クライマックス,気合と剣閃がこれでもかと飛び交う,御三家による御前試合のとてつもない格好良さにしびれる.一対一の戦いに集中できるという意味で,御前試合という形式はライトノベル的なバトルには相性がいいのかもなー(まあバトル漫画なんかで証明されていることではあるが).そこへ至るまでの,主人公の素朴さと,村正(幼女)が態度を変化させながら信頼を積み重ねる過程や,家族の関係も非常に着実で,かつほのぼのとしているのも良いんだよなあ.カッコ良さや勢いだけでなく,丁寧に作られた物語,という印象を受けた.
幼刀村正ってダジャレか! とのっけで思ったがこれは素晴らしかった.第3回の受賞作ではいちばんの当たりだと思う.