長谷敏司 『BEATLESS』 (角川書店)

BEATLESS

BEATLESS

エリカは、たぶんこの時代に目覚めて初めて、こころの底から笑った。
「そんなもののなかった時代の人間が、はっきり言ってあげる。人間が、本当に人間らしかった時代なんて、hIEを全部壊したって来ないわ」

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「俺は、機械よりも、人間を信じることにしたんだ。敵でも、俺を殺そうとしたやつでもだ」
絶望と、希望の間で揺れていた。そのぐらぐらと足元のおぼつかない中、呻く。
「最後には、人間を信じさせてくれ。人間の手を取らせてくれ」

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世界的に普及したhIE──humanoid Interface Elementsと超高度AIの存在により,人間社会が高度な自動化を果たしていた西暦2105年.ミームフレーム社から《人類未到産物》である五体の《レイシア級》hIEが脱走する.高校生の遠藤アラトは,そのうちの一体であるレイシア級五番機,レイシアに命を救われる.レイシアは,その場でアラトに要請する.「わたしの所有者(オーナー)になってください」……
人間とモノのボーイミーツガール.コンピュータ・ロボット・人工知能の支配・反乱.ポスト・シンギュラリティ時代の社会に人間は必要なのか.魂やこころとは実在するのか…….描かれるテーマは,非常に古くから語られ続けているものであるのだけど,100年後の視点を用いて恐ろしく濃密に語られる世界は,非常に率直で,本質に鋭く切り込んでいる.個人的に思ったのが,『ハーモニー』(感想)のその後の物語を描いたひとつのバリエーションかもしれない,ということ.“「人間なんて、そんなたいしたものじゃないでしょう」”とはっきり言ってのけた『あなたのための物語』(感想)と同じことを,手を変えて描いたものなのかもしれない,とも.複数のキャラクター,様々な立場から語られる社会観,人間観,未来観に,読み進めながら価値観をグラグラと揺さぶられる.“ことば”を言い出せばキリがなくなってしまうので,ひとつだけ言うなら,ハローキティという“意味”を付与されたマグカップという“モノ”のたとえにグッとくるものがあった.
人間(あるいは“モノ”,“かたち”……)にどのような価値があるか,どのような“意味”を見出すか,かなり千差万別なのではないかな.人間に対する絶望を見るか,希望を見るか.どなたかも言っていたけど,そのひとの人間観みたいなものを露骨にさらけ出してしまう,鏡みたいな作品である思う.すさまじい傑作でした.

〈いつか神への崇敬でも、同胞愛でもない、新しい言葉を作ってください。私たちへの愛を指し示すために〉

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