千の剣の権能者(エクスシア) (このライトノベルがすごい! 文庫)
- 作者: 紫藤ケイ,キムラダイスケ
- 出版社/メーカー: 宝島社
- 発売日: 2012/11/09
- メディア: 文庫
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「俺は、英雄を探していた――あいつは、それにふさわしい存在だった」
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そう知った時、身体中の血液が爆ぜるような喜びを得た。
「だが――あいつは、英雄になりたくて戦っているわけじゃなかった」
そう知った時、身体中の血液が凍りつくような自己嫌悪に満たされた。
泣いて、泣いて、思いきり泣いて――泣くことで、人の死を、喪失を、哀しみを受け止め、受け入れ、洗い流して、新たな思いで明日に望む。それが、彼女にはできないのだ。どんなに、肉体がそれを望んでも。
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魂を、持たぬがゆえに。
帝国によって支配される世界.“英雄”を強く求めていたクアンは,〈権能兵〉でありながら帝国兵の支配を受け付けず,弱いものを助けようとする少女,クアディカと出会う.クアディカは自分の霊を取り戻したいとクアンに告げる.
神話の時代から存在し,人の10倍を超える巨体と〈権能〉を持つ〈権能者〉.〈権能者〉に対抗するため,人間によって魂を抜き取られた〈権能兵〉.そして人間.三種類の存在がいる世界での,魂と英雄の物語.魂がない少女の話と,何が英雄を“英雄”たらしめるか,というふたつの柱を,非常にシンプルにうまくぶつけあって物語を形作っている.
そのふたつのうち,個人的に感じ入ったのが,「魂」の意味について.魂とは身体とも心とも別個にあるものであり,なくても困らないのだけど,ないと泣くことができない.心と肉体をつないで外部出力するためのインターフェースというか,もっと簡単に言うと人間らしさ,なのかな.言葉を尽くしているわけではないのだけど,限られたなかで非常にシンプルに描いている.このあたりの理屈の簡潔さには舌を巻いた.序盤で描かれる,誰のものとも分からない命令をこなすだけの少女と,それを“英雄”だ〈戦聖女〉だと「純粋に」崇める人々がなぜ気持ち悪いか,につながっているのかな.デビュー二作目だけど目の付け所がいいし,やっぱ恐ろしく上手いし面白い.