芝村裕吏 『この空のまもり』 (ハヤカワ文庫JA)

この空のまもり (ハヤカワ文庫JA)

この空のまもり (ハヤカワ文庫JA)

「前例って、模倣って、どういうことだ」
「人種や国の別なく、落書きが増えるのは落書きがあるからだと言った方がいいかな。聞いたことはないかな。駅や海岸でも、普段から綺麗にしていると中々汚れたりしないと。暴動だって同じ。誰かが暴動しているから、自分も暴動する。多くの人にとっては、ただそれだけ。そこに人の善悪や国籍はほとんど関係ない」
(略)
「それがあんたらのやってることか」
翼は微笑んだ。
「そうだね。落書きを一旦消して綺麗にする。それだけでいいはずだ」

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強化現実技術の発達した近未来.政府の情報技術への対応の遅れにより,日本のコンピューターソフトウェア産業は崩壊.海外からの情報技術による侵略を止められずにいた.翼Pこと田中翼は,現実の政府の対応に業を煮やしたネット民により立ち上げられた架空政府の架空防衛大臣にして,ニートである.
10万人の架空防衛軍を指揮し,政治的悪意に満ちた悪性タグを掃除せよ.Googleの提供する強化現実によって,ふたつのレイヤーを持つようになった日本における「防衛」の物語.嫌アジアとかネトウヨとか暴動とか産業の衰退とか超少子高齢化とかデジタルデバイドとか,根っこにあるものはいまここにある問題なのだけど,そのもろもろの閉塞感に「平成が終わって15年後くらい」の近未来設定を都合よく使い分けたりかぶせたり.率直に言って,第一印象は非常に気持ち悪い.SFというのは基本的にそういうものだと思うし,未来社会がこうなる,という理屈はすごく納得できるのだけど,すごく煽られている感覚がある.終盤へ向かうにつれて,だんだんと向かう方向が明確になっていくも,なんか気に食わないという感覚は最後まで抜けなかった.あとニートのくせに(いちおう理由はあれど)妙にモテる翼Pも気に食わなかった.