ハンヌ・ライアニエミ/酒井昭伸訳 『量子怪盗』 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

量子怪盗 (新★ハヤカワ・SF・シリーズ)

量子怪盗 (新★ハヤカワ・SF・シリーズ)

即刻、拡張大脳皮質(メタコルテックス)をオンラインにし、主観時間を加速させ、考える時間を確保すると同時に、戦闘内閉のベールを引きかぶる。
(〈ペルホネン〉。透視)
はるか上の軌道から、宇宙船が弱い相互作用をするエキゾチック粒子をバルコニーへと注ぎこんできた。ミエリの視野には、ワシーリェフたちの骨格が透けて見えた。拡張大脳皮質(メタコルテックス)がパターン・マッチングをかけ、体内に隠されていた武器を識別していく。どの個体もゴースト発射機(ガン)を所持していた。これは精神共同体(ソボールノスチ)の武器で、標的に選んだ精神をオーバーライドする戦闘ゴーゴリコピー精神(ゴースト)入りのナノミサイルを発射するものだ。

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「どこへいくの?」うしろからリンが呼びかけてきた。
イジドールは肩ごしに答えた。
「探しにいくのさ――もつれ(エンタングル)をすっぱり断ち切る剣を持った人間を」

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かつて大怪盗として名を馳せたジャン・ル・フランブールは,現在は〈監獄〉で永遠の囚われの時間を送っていた.そこへ現れたのはオールトの雲の戦士である美少女ミエリ.彼女はジャンを脱獄させる見返りとして,火星であるものを盗むよう依頼をする.
繰り広げられるのは怪盗 vs. 学生探偵,舞台はポスト・ヒューマン時代の火星.スウェーデン生まれの作家による第一長篇.よく言えばしっとりとした王道,意地悪く言えばやや古い感のあるストーリーに乗せられるのは,量子やナノマシンなどの未来ガジェットに,中世貴族的な服装,社会.ビジュアル的な訴えかけが質・量とも非常に強く,ギラギラしたビジョンがシーンごとに次々浮かんでくる.「SFは絵だ」とはこういうことを言うのかーと.テキストもえらく洒落ており,とりあえず何が起きているかは置いておいても文字を追いかけていくのがすごく楽しい.ルビや造語(英語,フランス語,フィンランド語,ヘブライ語,日本語などが混ざっているらしい)もさることながら,ボクっ娘ヒロインのミエリに,オレっ娘ピクシルがこれ以上なくピタリとハマっておりさすがの翻訳.『ニンジャスレイヤー』で翻訳SFに興味を持ったニュービーが次に読むSF小説としていいかもしれない.すげー面白かったです.