フェリクス・J・パルマ/宮崎真紀訳 『宙の地図』 (ハヤカワ文庫)

宙の地図 (上) (ハヤカワ文庫NV)

宙の地図 (上) (ハヤカワ文庫NV)

宙の地図 (下) (ハヤカワ文庫NV)

宙の地図 (下) (ハヤカワ文庫NV)

「首都を征服するのに、わずか二週間もかからないのよ」彼女はそこで言葉を切り、ほほえんだ。「あなたにこの侵略劇を再現していただきたいの」
ギルモアは本から目を上げ、唖然として彼女を見た。
「いま、なんて?」
「聞こえたでしょう? 世界じゅうの人に、地球は火星人によって征服されたと信じさせてほしいの」

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この独房から、火星人のピラミッドに夜の帳がおりるのが見える。この惑星を彼らが征服したことを象徴する第一の旗印であるピラミッド。かつてこの惑星はわれわれ人類のものだった。ここでぼくらは歴史をくり広げ、善きことも悪しきこともおなじように積み重ねてきた。だが、地球上から最後の人間が消え、人類が絶滅すれば、そんな記憶もいっさい残らないだろう。彼とともにすべては滅びる。
そのことをぼくはついに受け入れた。いまだに理解することはできないとはいえ。

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『タイム・マシン』に続いて『宇宙戦争』でも大ヒットを飛ばし,もはや知らぬものもいなくなったH・G・ウエルズだが,彼の憂鬱は晴れなかった.ウエルズの熱狂的なファンであり,『宇宙戦争』の続篇を勝手に書いたアメリカ人ギャレット・P・サーヴィスがイギリスまで会いに来ることになっているからである.その会談の席でウエルズは,自然史博物館の奥に,火星人のミイラが密かに収蔵されていることをサーヴィスから知らされる.
宇宙戦争』の作者,H・G・ウエルズの目の前で,トリポッドに乗った火星人たちがロンドンの街を破壊しつくす.H・G・ウエルズを主人公に,『タイム・マシン』をテーマにした『時の地図』(感想)の続篇.フィクションとして書いた自分の小説が,自分のものと少しずつ違った形で現実のものとなる.ある部分ではユーモラスなラブロマンスだったり,ある部分では破滅世界を描いたSFだったり,ある部分はホラーというかどこからどう見ても『遊星からの物体X』だったり.前作もそうだったけど,ホラー,SF,ミステリと,あっちこっちとジャンルを軽快に飛び回る.その裏で,密かに進行する大仕掛け.上巻での妙に据わりの悪かったアレが,まさか下巻でのアレにつながるとは…….小ネタもあちこちに仕掛けられており,分かれば分かるだけ楽しい.『時の地図』に比べるとややご都合主義を感じるというか強引さを感じるかなーとは思うけど,綺麗なラストは良かった.皆もぜひ『時の地図』から読んでみるといい.