渡来ななみ 『天体少年。 さよならの軌道、さかさまの七夜』 (メディアワークス文庫)

何度想像してみても不思議だ。あの人は今も私に近づいてきているのに、私は今も、あの人と遠ざかりつづけているのだから。
あの人の本当の姿を私は知らない。視認することができないからだ。もしかして私の研究が進めば、少しでもその存在に近づけるのだろうか――否、わかっている。それは私の世代に実現することではないだろうし、なにより、私がもうあの人に会えないことは、当時すでに証明されてしまっている。

Amazon CAPTCHA

天文学者の父と南の島に暮らす少女,海良(ミラ)は毎晩のように草原に出ては星を眺めていた.ある晩,海良は空に浮かぶ半透明の少年に出会う.τ-38502awと名乗った(「名前というか、識別番号だけどね」)少年は,自分は未来から過去へ進む天体であり,これから七つの晩を海良と過ごすことになると言う.
未来へ向かう少女と,天体であり過去へ向かう少年の七日間限りの初恋.切なくもロマンチックなボーイ・ミーツ・ガールSF.宇宙の始まりと終わり,遠未来の地球,多次元世界など,SFとして物語に絡む部分は説明しすぎず,非常に分かりやすく描いているのがポイント高い.ジュブナイルSFとしてかなりイケるのではないか.少女の一人称の体感として描かれる多次元の渡航描写にキュンとし,避けることの出来ない別れを前にした“やがて塵となった僕は、君との思い出をビッグ・バンまで運んでいくよ。”という台詞にキュンキュンした.同レーベルの『ネバー×エンド×ロール』(感想)と同様,肩の凝らないSFという感じで.良かったです.