ルチャーノ・デ・クレシェンツォ/谷口伊兵衛訳 『ベッラヴィスタ氏分身術』 (而立書房)

ベッラヴィスタ氏分身術(ダブル)

ベッラヴィスタ氏分身術(ダブル)

「それなら、クラブを変更したまえ。すぐにラツィオのファンになればよい。そうすれば、あんたはステファニアをいっそう強くあんたに結びつけることができるよ。」
「それはまっぴらだ!」と分身は抗議した。まるで私が彼にそんなことを提案できたとでもいうかのように、立腹して。「人生では何でも変更できる――妻、愛人、住居、政党は。でも、サッカー・クラブは? 全然。サッカーはおそらく裏切りに無縁な、唯一の人間の情念だろう。われわれのサッカー・チームは負けるかもしれないし、セリエBに、ときにはセリエCにさえ落ち込むかもしれないが、でも真のファンは悪魔でもどこでもチームに忠誠を保つであろうよ」。

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ルチャーノ・デ・クレシェンツォ氏は,自宅の書架の裏側に,時間が経過しない部屋があることを発見する.これはいいと本やら何やらを持ち込んでくつろぐようになるデ・クレシェンツォ氏.そんな彼の前に,反物質で構成されているという彼の分身がちょくちょく訪れるようになる.
イタリアの老作家によるユーモア小説にして自伝的小説.ヴァイオリンの音楽とともに登場する並行世界の自分との対話から過去を振り返り,新たな己の可能性を語る.物語はイタリア,ナポリの歴史をかぶせながらやがて彼岸(?)へ…….わりとさらっと読めるのだけど,作者のバックグラウンドをまったく知らないので,いまいちどう読んでいいのか迷ってしまう(たまたま本屋で見かけて,はじめて名前を知った作家なので……).どこかしら不気味さを秘めているような,そうでもないような.誤字が多いのと,カギカッコの表記ゆれは気になりました.