小川淳次郎 『百億の魔女』 (講談社ラノベ文庫)

百億の魔女 (講談社ラノベ文庫)

百億の魔女 (講談社ラノベ文庫)

アテネは左手の手袋を外した。
彼女のその手は、あまり綺麗なものではなかった。関節が太くなっていて、所々火傷の痕跡もあった。剣を振るっていたのだから筋肉がついていて、たおやかな、女性らしさからは程遠いものだ。しかし、アテネらしいと思った。

百億の魔女 (講談社ラノベ文庫) | 小川 淳次郎, ささき むつみ |本 | 通販 | Amazon

神鳥零次は三年前までの記憶が無い.幼なじみの無道風子とともに,それなりに穏やかな日を送っていた零次だったが,カバンの底にリボルバーを見つけたある日を境に,その日常は変化してゆく.
三百年に渡り継承されてきた悪魔をめぐる魔女姫戦争(ベルム・レギナ・マギカ)の開幕.メガミ文庫から『成金』(感想)でデビューした作者の,ペンネーム変更しての再デビュー作(という言い方でいいのかな).主人公に取り憑いている悪魔からはじまり,多数の銃にあしゅら男爵(仮)の登場するクライマックスなど,ビジュアル面でのインパクトが非常に強烈.肉体の細かな動きやディテールも含め,ゴリゴリと描いているのが特徴的で印象に残る.
物語のキーワードのひとつが“その人間のこれまでの歴史。行動の指針。”と定義している「バックボーン」.三年分の記憶しかない主人公と,三百年をこえる執念に駆られる魔女姫.それぞれ行動を駆り立てるものがあり,実際にどう行動して,その結果どうなったか,というところに泥臭くも上手く繋げている.正直あまり読みやすい作品ではないし,どこかで見たような固有名詞が多くて損しているような気もするけれど,熱のある物語であると思う.あと,作者の郷土愛のなせる業なのか,ヒロインが一貫して土佐弁というのは珍しいかもしれない.