- 作者: 黒史郎,コバシコ
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2013/01/13
- メディア: 文庫
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「貴君はまだ言語システムの崩壊する恐ろしさを理解していない。言語を奪われ、壊され、狂わされることが、世界にどれだけ影響を及ぼすのか、想像できていない」
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ラヴは語調を強めた。
「言語は情報を共有化させる、社会にとっての大切な大動脈です。人々はあらゆる均衡を保つために無数の言語を通わせます。もし大動脈が断たれれば心臓がどうなるか――わかりますね? 毒が入れば? そう。毒は巡って全身を蝕む。そのようなことが今、この世界で起きていモゴです」
もう少しというタイミングで、ラヴはビスケットを三枚重ねで口につめ込んだ。
十四、五メートルほどの背丈の“山羊のようなもの”は、芋虫の体液の絨毯を滑るように移動し、水が揮発するようなジュウという鳴き声を発した。
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どんな神話にも語られない異形のもの。この世に存在してはならぬ容のそれは、直視した者の心臓を止めるぐらい造作はないはずだった。現に今、多くの人間の心臓を、手を触れずに、悪意を抱かずに止めて見せた。どんな英雄であろうと、この怪物の前では逃走を許されるに違いない。
マサチューセッツ州アーカムは,有名小説家の作品にあやかり,40年前に改名した歴史を持つ街.そこに住む気弱な少年カンナ・セリオは,片思い中の女性の女性の顔面に開いた穴に吸い込まれる.迷い込んだ先は異世界スウシャイ.カンナはそこでラヴクラフトを名乗る少女ラヴに助けられる.
ラヴクラフトを萌え擬人化した「名状しがたき暗黒冒険ファンタジー」.気弱な少年カンナ,美少女ラヴクラフト,人面鼠ジェンキン,蟹のような姿のミゴ.作中で少し言及していたけれど,クトゥルフ版「オズの魔法使い」というとしっくり来る.導入はあらすじ通りのコメディタッチだったのに,気がついたらガチのクトゥルフホラー,そして言語SFに違和感なくスライドしていた.なんというか,作者のフィールドにものすごく自然に引きずり込まれた,という感覚.物語の鍵となる