おかもと(仮) 『しずまれ! 俺の左腕2』 (このライトノベルがすごい!文庫)

しずまれ! 俺の左腕 2 (このライトノベルがすごい! 文庫)

しずまれ! 俺の左腕 2 (このライトノベルがすごい! 文庫)

巻名はこぶしを握ってそう主張すると、護身用に使えそうなものを探し出し、……なにをどう考えたのか台所の包丁を持って帰ってきた。殺る気か。
「巻名、落ち着くんだ。包丁でやったら相手死んじゃうかもしれないぞ!」
「でも部活で先輩が『得物は手になじんだ武器がいい。使い慣れた武器は戦場でお前を裏切らない』って言ってたし。包丁ならほとんど毎日触ってるし、ちゃんと……やれる!」
結局お前何部なの。そして殺るな。

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いろいろあって異世界の魔王に惚れ,同居することになった紳士.異世界から「魔剣」が流れてきたという情報を知った紳士は,友人たちを危険に巻き込んでしまうことを恐れ,無理に距離を置こうとする.それが大きな失敗であった.
シリーズ二巻.今回は掛け値なしの傑作だった.ラブコメには「鈍感」な主人公は多々いるけれど,ヒロイン(魔王)と幼なじみ,それぞれの好意に気づいており,だからこそ失敗してしまうという主人公の愚直な「鈍感さ」にはキュンとしてしまった.ってか幼なじみが包丁を手にヒロインの前に現れるシーンを,緊張感とギャグをこれほど両立させて描いた作品は前代未聞ではないか.
ギャグもシリアスもテンポ良くキレキレで完成されている.でもって,その両者の振れ幅が怖ろしいほど大きいのに,自然に繋がり一本のラインになっている.センスの塊ってか,デビュー作から読んできて五作目で,センスの底がまだ見えないのがまたすごい.なんというか,正しく評価されてほしい作家さんだなーと普段思わぬことを思ってしまったわけでした.良かったです.