テッド・ムーニイ/中村融訳 『ほかの惑星への気楽な旅』 (ストレンジ・フィクション)

ほかの惑星への気楽な旅 (ストレンジ・フィクション)

ほかの惑星への気楽な旅 (ストレンジ・フィクション)

月は嘆いている。一九六九年から、月は理解するようになってきたのだ。人類が自明のものと思いこんでいる生命/無生命の区別のせいで、彼らが月自体の“生命力”に気づかないでいることを。月は希望をいだいてきた。ひょっとしたら過度な希望かもしれないが。それなのに、いま月の表面には人間の足跡がある。深さはせいぜい六インチだが、百万年以上残ることは確実であり、これらの足跡は、月にすれば心おだやかではいられない未来の紋章に思える。未来に思いをめぐらしながら、月は地球に光を反射している。その光はジェフリーとメリッサのベッドルームに射しこみ、ものの表面を照らす。月は地球の周囲をめぐりながら、宇宙空間をまわりつづけるが、地球から離れている――一年に二センチ、一世紀に二メートルという現在の割合になるまで。いきなり、月が“加速感”に襲われる。月はいう――「なぜわたしを崇めないのだ?」

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イルカの研究者であるメリッサは,イルカのピーターとの三週間の共同生活の最終日に,禁断の愛に踏み入ってしまう.
1981年に発表されたデビュー作.ちなみに作者の小説が日本で紹介されるのははじめてとのこと.女性研究者,その恋人,恋人の双子の弟,肺ガンに冒された母,六回目の中絶を控えた親友,そしてイルカ…….「これ絶対入ってるよね」と言わずにいられない表紙だけれども,読んでみたら本当に入っていたのは驚いた.場面ごとは読みでがあるし,時折すげー美しい情景がするっと挟み込まれはっとするのだけど,ストーリーは何といえばいいのかよくわからない.どうやら南極で何かが起こっているらしい,「情報病」という突発性の病気が流行っているらしい,月と人間の精神とイルカの言語に何らかの関係があるらしい.というあたりをぼんやりほのめかしつつ,なんの断りもなく場所や語り手が入れ替わる(時系列は一貫していると思う)うえ,細かい説明もされないまま,各人物の愛や性が語られる.どなたかが「サンリオSF文庫っぽい」と言われていたけれど,まさにそんな雰囲気の一冊でした.