中維 『斉藤アリスは有害です。 〜世界の行方を握る少女〜』 (電撃文庫)

「あいつはあんたと、家族とやらになりたかったんじゃないのか?」
それは秀明の主観でしかなく、ともすれば希望的観測にすぎないもので、およそ普段の彼らしからぬ発言だった。
理論はどうした。整合性はどこへいった。これでは懇願。説得からは程遠い。
沈黙ののちに被さってきた答えは諦念で、聞き慣れた、お馴染みの文句だった。
『……しかし、この手は掴めない。もはや抱きしめるには遅すぎたのだ』

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いるだけで不条理な不幸をもたらすことから,人類史上初の有害指定を受けた少女,斉藤アリス.周囲は疎み恐れ彼女から距離を置こうとするものが多かったが,山野上秀明は違った.彼はオカルトを信じない.斉藤アリスの有害さを解明してやろうと,英明は彼女に接近するのだった.
「探偵失格」二作(一巻感想二巻感想)でデビューした作者の新作は,ざっくり言うと21世紀版「キャリー」.とは言え派手にイヤボーンするわけではなく,ライトノベルらしい無難な感じかな……と思って読み進めると実はそうでもなかった.まあストーリーの細かいところはネタバレになるから置いとくとして.地の文がいまひとつ安定しない(三人称と一人称をふらふらしている)ことをはじめ,目をつむるべき難も正直あるけども,ミスリードを誘導するような記述とストーリーに,キャラクターの可愛らしさもあって面白く読めた.主人公の英明いわく「丘ペンギン」のアリスはもちろん,脇を固める博士やアイちゃん先生も非常に良い味が出ている.ラストも好きだなー.「探偵失格」より確実に上手くなっているのは間違いない.強くおすすめするような作品ではないけども,個人的にはとても好きな作品です.