北野勇作 『ヒトデの星』 (河出書房新社)

ヒトデの星

ヒトデの星

まるで連続した自分が、ずっと前から存在していたように自分自身を錯覚させる仕組み。
それこそが、つまり「自分」というものなのではないか。
ばらばらの欠片を、繋がったひとつのシナリオとしてとらえるためのもの。
まず繋がっていると感じることができるからこそ、それを断ち切られるのが恐ろしいのだ。だから、繋がっていると感じさせる仕組みが必要だ。
それが「自分」。
これまでの記憶と繋がっているもの。
そう感じさせる唯一のもの。

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はじまりは昔々.泥の海で覆われたその星では,泥の体を持つヒトデナシ――ヒトの形をした,ヒトではないもの――たちが,シナリオにそって毎日仕事をしていた.あるとき,ヒトデナシのひとりが閉鎖された工場でテレビを拾ったことから,ささやかな世界の再生がはじまった.
帯曰く「はるか未来のむかし話」.自分が空っぽであることに気づいたヒトデナシは,誰のものとも分からぬ他人の記憶を,自分のものとして見つめる.世界はどこからどこまでが連続しているのかあくまでもあやふや.基本的な設定はいかにもな北野勇作なのに,全体を覆うトーンは不思議に優しい.自分の居場所を作ったヒトデナシが,妻と出会い,家を残すためにやろうとしたこと.ヒトデナシという,過去の作品にもたびたび登場したキャラクターが,あやふやなりに幸せを求める,という物語に,なんかこう胸が熱くなるものがある.一冊でも良いものだと思うけど,過去の作品を読んできたファンならなおのことなんじゃないかな.