ダニー・ラフェリエール/立花英裕訳 『ニグロと疲れないでセックスする方法』 (藤原書店)

ニグロと疲れないでセックスする方法

ニグロと疲れないでセックスする方法

「じゃあ、最高のニグロ作家になりたいのね」
「そうさ。ディック・ライトよりもすぐれた作家だよ」
「チェスター・ハイムズよりもすぐれた作家ね?」
「チェスターよりもすぐれた作家さ」
「ジェイムズ・ボールドウィンよりもすぐれた作家でしょ?」
「ウーム、あいつは手ごわいな」
「どっちなのよ、ボールドウィンよりも上なの、下なの?」
「上だよ。いい名前だな、ボールドウィンって。『すけこましニグロのパラダイス』を引っさげてついに登場。ジェイムズ・ボールドウィンを超えたモントリオール黒人青年作家

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ニグロの青年である「おれ」は,ルームメイトで同じくニグロのブーバとモントリオールで暮らしている.ソファベッドに寝そべってごろごろしたり,瞑想に耽ったり,コーランを読んだり,ジャズを聴いたり,たまにセックスをしたり.そんな生活を送りながら,日々をレミントン22(タイプライター)に叩きつけている.
「人はニグロに生まれるのではない。ニグロになるのだ」.1985年に発表された作者の処女作.「ニグロ」というアイデンティティが下敷きになった,ある青年(≒作者自身)の日常.「ニグロ」,「ニグロ」と事あるごとに連呼し,白人文化と精神性の違いみたいなものを表に出すものの,ギラギラしすぎず,屈折しているでもない語りが印象に残る.黒人男と白人女の間にあるものがテーマのひとつにあるのだけど,ミズ・リテラチュア,ミズ・ソフィスケイティド・レディ,ミズ・スノッブなど,女性に固有名詞が一切あてがわれていないのがまた面白いところでもある.ポップ文学風というか,読みはじめの第一印象はニグロ界の高橋源一郎かな,だったのだけど,読んでいくとニグロ界の(ブログで公開している短篇のほうの)大間九郎かな,という感覚になった.