伴名練 『少女禁区』 (角川ホラー文庫)

少女禁区 (角川ホラー文庫)

少女禁区 (角川ホラー文庫)

「怖く、ないのですか」
つい、普通の患者相手には決して尋ねないようなことを、訊いてしまう。
予期しなかった沈黙が、数秒、流れた。雲が動いて、日陰に隠れたその表情は読み取れなかった。ようやく男は口を開いたが、その声音は、明らかに先刻までとは異なり、低く、潜めた調子だった。
「死を超えてなお届く呪詛というものに、未だに、心をかき乱されていますから」
死を、超えて。わたしがその言葉を繰り返すと、男はまた指を撫でた。

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第17回日本ホラー小説大賞短編賞受賞の表題作「少女禁区」と,「chocolate blood, biscuit hearts.」の二篇を収録した短篇集.SFのアイデアを組み入れながら,死んでなお存在感を増す父の姿に脅かされる姉弟のいびつな関係を詩的に描く「chocolate〜」は最初から最後まで息苦しい.「少女禁区」の呪詛のアイデアと,甘くて苦いラストはすごく良かった.まとまった物語だから難しいだろうけど,こちらはもう少し長い尺で読みたかった気もする.