東出祐一郎 『オーギュメント・アルカディア』 (朝日新聞出版)

オーギュメント・アルカディア

オーギュメント・アルカディア

「我々はいつの日か、全てを幻想が覆う世界(シャングリラ)に到達するだろう。そのとき強さを決めるのは、現実(リアル)の強さじゃない。どれだけ優れていて、どれだけ容量が大きく、どれだけ予算を持つ情報体(インスタンス)を武器としているか、だ」
「……まあ、否定はしない」
否定しない。年々、日を追うごとに幻想(デジタル)は拡大していく。既に先進国で、拡張現実(オーギュメント・リアリティ)の恩恵に与ってない者はほとんどいない。
仮想世界ならば、まだ良かった。現実(アナログ)という過酷でも、受け入れてくれる世界が残っていた。だが、現実が幻想(デジタル)侵食(クラッキング)されたならば。脱落した人間は、どうやって戦えばいいのだろうか。

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時は拡張現実技術が世界を理想郷(アルカディア)へと変えてから約20年後.舞台は日米露中の5大企業が睨み合う混沌の街,北廊市.物語は,記憶を持たない情報体の少女を,ひとりの探偵が救う場面から始まる.
AR社会のハードボイルド・サイバーパンク.という書き方をすると「騙された!」と言われそうだが,概ね間違いではない.基本は異能バトルだけど,ヤクザあり,ニンジャあり(「アイェェェェァアア!!」),中国拳法ありと,豊富なラインナップはさすがと言える.しかし,肝である拡張現実の描写が甘いのはものすごく気になった.拡張現実が現実に及ぼす(社会的・物理的)影響とか,それ以外の科学技術との整合性とか.仮想現実が危険ゆえに禁止され,代わりに発達したのが拡張現実というふうにプロローグで説明されるのだけど,説得力があまりない.言い方は悪くなっちゃうけど,どこか子供だましでしのいでいる感覚が強い…….拡張現実をフィクションに登場させるにあたってのお約束というか決まり事というか,そういうのってひょっとしてまだ確立されてないのかな,ということを読みながら思った.