陸凡鳥 『武装神姫III GHOST DIGS』 (ガガガ文庫)

本作において、主人公である神宮司八郎は、戦闘中ほとんど活躍しない。彼は神姫たちが戦う脇で、ときたま彼女らに指示を出すだけの傍観者にすぎない。牽強付会に断定するならば、ここでの神姫たちはツールである。彼女らの戦いは、すべからく代理戦争なのだ。人間が傷つくよりはいいという理由で駆り出される彼女たちをどう見るか。単なるホビー玩具か、労働力か。あるいはそういった存在を超えた人間のパートナーなのか。明確なコンセンサスが提示されていない以上、各々で考えるしかない。その際の判断材料として、機械たちの健気さもひとつの指標となるかもしれない。未来の世界において、神姫よりも人間に近しい人工生命体が出現する可能性はある。もしもそういった者たちが現れたとき、我々が取るべき態度は、今後『もののあはれ』の尺度がどこまで拡大するかによって決定されるだろう。

Amazon | 武装神姫〈3〉GHOST DIGS (ガガガ文庫) | 陸 凡鳥, 新井 テル子, コナミデジタルエンタテインメント | ライトノベル 通販

宮司八郎と相棒である神姫のアトラは休暇を利用して神姫のエキシビジョン大会を訪れた.会場近くで二体の神姫が戦う場に出くわした八郎は,バッジがないにも関わらず独自に捜査をはじめる.そこで,かつていっしょに仕事をした女刑事,保科と再会する.
休暇中の刑事が事件に巻き込まれ,かつての同僚と再会する.今まではハードボイルドSFだったのだけど,今回はなんかとっても二時間サスペンスっぽい.主人公が四十の刑事(一巻の時点では四十手前だったはずだが,どうやらひとつ歳をとったらしい)という,もともとライトノベルには珍しい設定もがっちり噛みあって,自分が何を読んでいるのかだんだん分からなくなってくる.で,その分からなくなった頭で考えるに,一般的な物語のなかに,ロボット=神姫をいかに溶けこませるか,そして神姫が人間社会においてツールからそれ以外の存在に移行する過程に何が起こりうるかを,実験的に描いた作品なのではないか,という気がしてきた.まあそういう物語はSFではいくつも書かれてきたし考えられてきたことでもあり,そういう意味では古くて新しい小説と言ってもいいのかな.一巻(感想)を読んだときに受けた「ベタでガチ」という印象はそう間違ってなかったのかもしれないね,っていう.