木村百草 『恋に変する魔改上書』 (ガガガ文庫)

恋に変する魔改上書 (ガガガ文庫)

恋に変する魔改上書 (ガガガ文庫)

「ハーレムラブコメに理由なんていらないだろう。例えば幼児向けアニメは、教訓と共にハッピーエンドがもたらされるだろう? なぜかといえば、そのほうがいいからだ。ハーレムラブコメも同じだ。なぜハーレムなのかといえば、そのほうがいいからのひと言で片づけられる」

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薄幸な女子高生,浅間莉子は,幼なじみの山伏諒太が急にモテはじめたことが気に入らない.三人の美少女と仲良くしやがって,まるでハーレムラブコメではありませんか.文芸部に入った莉子は,胸のムカつきをぶつけるがごとく,諒太をネタにしたハーレムラブコメを書くことを宣言するが,なぜかラブコメとして書いたことが次々に現実になってしまう.
現実を「上書き」する力を使い,ハーレムラブコメを現実のものとするのだ,という第7回小学館ライトノベル大賞・優秀賞受賞作.という.ひとことで言うとメタハーレムラブコメ,だと思うのだけど,それでスルーしてしまうのはもったいないと思う.書いたこと(=お約束)をそのまま現実にする〈魔改上書〉だけならまだしも,一人称の地の文にまで介入して,現実をバカバカしい方向にひん曲げる「ラブコメの魔」が話をややこしくしている.ひとの人生を自分の都合だけで書き変えるのはいかがなものか,とかエクスキューズはあるにしろ,それだけの力をこんなくだらないこと(だけ)に費やしていいのか,とは思うけど,読み終わってみると妙にさわやか.40ページに渡るクライマックスの演劇シーン(演じるのはもちろんハーレムラブコメ)もなかなか.これは個人的な好みだけど,ライトノベルの演劇シーンが好きなので.なんだかんだで良かったです.