北元あきの 『聖黒の龍と火薬の儀式(パウダーキス)』 (MF文庫J)

「レガード・ウォンの血統め! 人殺しが! 地獄に堕ちるがいい! 悪魔にはらわたを引きずり出され、陵辱の限りを尽くされるがいい! くそアマが!」
燈子は奥歯をきつく噛み締めて、暴れる男を睨みつけた。
なんとでも言うがいい。だが、誰が好きでこんなことなどしているものか。
おまえは知らないだろう。その血統のせいで、わたしが香港でどれだけひどい目にあったのか。どれだけ血へどを吐いて、死に物狂いになって今の立場を手に入れたのか。
地獄ならとっくの昔に落ちている。

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香港生まれの高校生,朝霧圭は,香港に拠点を置くカオルーン商会に雇われ,〈アンティーク〉を回収するハンターとしてアジアを駆け巡っていた.圭は香港で常にひとの姿をとる〈アンティーク〉,ヴィクトリア・ブラウンベスと出会う.日本に帰った圭は,何やらいろいろあってヴィクトリアと同棲することになり.
北元あきの約2年半ぶりの新作.舞台は学園都市.飛び交うのは香港の八卦魔法と英国の四大魔法.ヒロインはアロー戦争で使われたマスケット銃(ブラウン・ベス)の九十九神.大雑把に説明するとこんな感じになるのだけど,デビュー作の「竜王女は天に舞う」と同様,テキストとかシーンごとの描写とか,きめ細かいところまで目が届いていると感じた.ちょっとした表現の違いで,ストーリーとキャラクターに動きと個性を出しており,時々はっとさせられる.セリフや説明ではない部分で違いが出せているというのかな(「優しいブレーキング」とか).間が空いたけど変わらずうまくて安心したというか,安心して楽しめたというか.良かったです.