石川博品 『後宮楽園球場 ハレムリーグ・ベースボール』 (スーパーダッシュ文庫)

皇帝の楽しみは尽きない。女は無限にいる。野球は終わらない。香の君の中で早くも果てそうになりながら冥滅(メイフメツ)は永遠というものに手がかかりそうになっているのを感じていた。

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自分も彼女も、野球をするためだけの体であればいいと香燻(カユク)は涙を拭いながら願った。そうすれば無事でいられる。余計なものを背負わずに済む。その心を知ってか知らずか、蜜芍(ミシャ)は彼の体を撫で回し続けた。

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野球の巡業で身を立てていた遊行の徒によって建国された大白日(セリカ)帝国.皇帝(スルタン)冥滅(メイフメツ)を暗殺するため,女装して香燻(カユク)と名前を偽って後宮(ハレム)に潜入した海功(カユク)は,皇帝の寵愛を得るために宮女たちが興じる野球連衡(リーグ)に身を投じることになる.
中国のような南国のようなどこにもない国の,奥が知れない巨大な後宮.そこでは女たちが日々の生活と野球に興じる.いやー,さすが.「耳刈ネルリ」で描いたような,どことも知れない世界をいきいきと描くことについては右に出るものがいない.どなたかもおっしゃっていたように,説明をしすぎないのが良いんだろうけど,かと言って説明が足りないとまたよろしくないし,その配分が絶妙.女の園に忍び込んだ香燻(カユク)の心情の変化,後宮という特殊すぎる場所の生活様式,いきいきと描かれる女たちと,むんむんと香るような密度に圧倒される.引用した部分にあるように,マジで「永遠に続く楽園」のひとかけらを垣間見た思いですよ.ちょこちょこ挟まれる野球ネタ(一部はなんJネタ?)もくすっと楽しい.良いものでありました.