ほぼ日P 『シンキロウプロジェクト』 (PHP研究所)

シンキロウプロジェクト

シンキロウプロジェクト

「まあ何よりだ。君の曲はそのままシンキロウプロジェクトの曲には採用できない。メインのリスナーは中高生だぞ。洋楽っぽいテイストのサウンドなんて今どき受けないんだ。それに歌詞だって人生とか社会のことなんか関心がないんだよ」

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バンドのために高校を中退後,そのバンド解散によって抜け殻のようになっていた加藤新は株式会社シムラクラムの面接を受ける.シムラクラムで開発されたボーカロイド『UI』を使った「シンキロウプロジェクト」に参加することになった新だったが,違和感は大きく膨らんでゆく.
社会現象を巻き起こしながら突然消滅したシンキロウプロジェクトとはなんだったのか.カゲロウプロジェクトと世界観をシェアしている部分もたぶんあるんだろうけど,詳しくないので置いといて.ボカロPという虚像や音楽業界の裏側を暴きながら,なにやら陰謀論めいたエッセンスを加えて,ジェットコースター的にストーリーが展開してゆく.節ごとにリアリティレベルがすごい勢いで上下するのよ.商業音楽やゴーストライティングの歴史の説明と,音楽作りのために山ごもり修行だとか音楽による洗脳だのが同じ重みを持って扱われている.しかしまあ,音楽に関する部分では一定の説得力があるし,そういう意味では安心して読める.発声器官を物理的にシミュレートしているボーカロイドという発想はありそうで見たことなかった(フィクションなり現実なりにはもうあるんだろうな)し,それがラストへの伏線になっているのは良かった.