木下古栗 『金を払うから素手で殴らせてくれないか?』 (講談社)

金を払うから素手で殴らせてくれないか?

金を払うから素手で殴らせてくれないか?

「考えさせてください」「まさか断るつもりか。おい、頼めるのはお前しかいないんだ。他に都合のいい若い女の知り合いなんていないんだからな」「でも、急にこんな話をされても」「断ったらクビだからな」「そんな」「俺はまともな人間じゃないんだ。全能感を失うと何をしでかすか分からないぞ」

IT業界 心の闇

上司から浮気の後始末のため身代わりを頼まれた女に起こったビックリ事件「IT業界 心の闇」,アメリカ人ハワードの再来日からの日々を非常に独特のハイテンポで描く「Tシャツ」,会社から失踪した米原を探しに旅に出た鈴木と米原米原(なのか?)の食べ歩き道中「金を払うから素手で殴らせてくれないか?」の三篇を収録した短篇集.相変わらず直球で下品だし,内容らしき内容もなくどんどん脱線していくばかりなのに,なんでかすごく楽しい.テキストのセンスだけのひとではないと思うのだけど,それにしても引用部分の“「俺はまともな人間じゃないんだ。全能感を失うと何をしでかすか分からないぞ」”は声に出して読みたい日本語の,今シーズン暫定ナンバーワンである.良いものでした.