三島浩司 『ガーメント』 (角川書店)

ガーメント

ガーメント

〈しかれども、私の本意ではございません。あなたたちが歴史を変えるゆえ、かのごとくなったのです。私は使われているにすぎません〉
「だれにだ」
〈……史実、と存じます〉

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大学生の花輪めぐるは,占い師の関未来に「千載一遇の機会」を得られると予言された日に,大学の天井から生えていた少女に出会う.名乗ろうとせず社会常識もない少女にツゥと名をつけ,アパートで同居生活をすることになるめぐる.だが,わけもわからぬままに戦国時代へタイムスリップしてしまう.
歴史の流れに楔を穿つ使命を持つ「楔者」.史実を守るバリアのような働きをする「ヌキヒ」.独特の用語と独特の理論,それにもまして独特な語りで編まれる時間改変SF.全体の八割くらいは「なんだこれは……」と思いながら読んでいた気がするのだけど,残り100ページくらいからぐっと面白くなり,読み終わった今ではとてもさわやかで良い話だったような気がしている.実はすごい時間スケールの話なのに,なんで信長にこだわるんだろう……と思っていたら,まさかそういうことだったとは.独特の話運びは,2012年のSFセミナーで語った「人間心理と確率論」を実践しているのだと思う(インタビュー中の「タイムトラベラーもの」がこの作品のことなんだろうな).つってもそれが面白さに貢献しているかというと,単にごちゃごちゃさせているだけのように見えて,微妙かなあ.面白がれるひととそうでないひとが割れそうな作品ではあるけれど,「たぶん誰も考えていなかったアイデア」というのは間違いないので,気になるところがあるなら読んでみるといいさ.