時代の中でチンギス率いるモンゴル族もまた、その版図を宇宙へと広げていた。モンゴル族が宇宙へ伸長すれば同盟族であるケレイト王国も当然それに続き、また敵性氏族であるナイマンも拮抗を保つために進軍する。モンゴル、ナイマン、ケレイトの勢力争いはその舞台を高原から宇宙へと移していた。しかし元来遊牧民である彼らにとって大宇宙はあまりにも過酷だった。宇宙には草原がない。
第五の地平
この問題を解決したのが、チンギスの作り上げた《宇宙草》である。
システムという語りを、ハリムは信じている。あらゆる言語は、不安定な意味判断に関わってしまっているがために、再現性に限界を持つ。だが、システムはこの過ちを犯すことなく記述できる。
バベル
「シャヒン、意味を語らないからいいんだよ。言語は、意味を語るたびに、精度を落としてゆく」
宮部みゆき「戦闘員」は,これが売れっ子作家の筆力なのか,そんな大したことのない話であることは読んでてわかるのだけど,素直にわくわくと読まされてしまう.月村了衛「機龍警察 化生」は単体でも読める短篇となっているけど,本編にも関わってくる重要な話をやっているようにも読める.シリーズのファンなら読んでおくといいと思う.「原因などなくていい、矛盾はない!」をテーマにしたタイムスリップもの藤井太洋「ノー・パラドクス」はアイデアのごっちゃとした詰め込みっぷりが楽しい.宮内悠介「スペース珊瑚礁」は「スペース金融道」シリーズの一本.実ははじめて読んだのだけど楽しいな.宇宙へと進出したチンギスがさらなる未知の地平を目指す野崎まど「第五の地平」は傑作.とんでもない法螺をさらっと吹いてのけるスマートさがこれぞSFといった風でちょう楽しい.太陽が百四十本の足で黄道を闊歩する世界を描く酉島伝法「奏で手のヌフレツン」.『皆勤の徒』にも通じる,言葉遊びのような世界が実にグロテスクで心地いい.表題作の長谷敏司「バベル」はビッグデータ,イスラム圏の紛争,ストレス,システムという完全な語りから生まれる現代SFらしい力作.言語でできた宇宙の最期を高らかに描く円城塔「φ」はひたすらアホらしい(文字通りの意味で).
ということで良いアンソロジーでした.最初から最後までワクワクしながら読んでしまいましたわ.個人的に特に良かったのは長谷,野崎,酉島かな.取りあえず気になる作家がいるなら手にとってみて損はないと思います.