海羽超史郎 『バベロニカ・トライアル 西春日学派の黄昏』 (電撃文庫)

「ところで、このバベルの塔の寓話から得られる教訓は、なんだと思う?」
「身の程を知らないと失敗する、とかひどい目に遭う、って話だろ?」
そんな葉柄の答えに、櫻は小さく首を振った。
「“人を上回る何者かがいる”ということだ」
ふいに、背筋が寒くなった。

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研究都市,西春日市.地下に巨大な演算装置である「バベロニカ野」を備え,沈降を続けるこの都市では,各学派が実験と演算にしのぎを削っていた.この都市で暮らす高校生の箒場葉柄の前に,嵯峨野学派主席教授の娘である八重垣櫻が5年ぶりに現れる.
イデアの根っこをボルヘスから取り,連続体仮説セル・オートマトン,擬似テレポートを駆使しつつ,未来とノスタルジーが同居した都市での幼なじみとの再会を描くという,変な読み味のSF.都市SFでもあり数学SFでもあるかもしれない.主人公の養父をはじめとした「天才」の印象的な描き方に,バベロニカ野でのバベロニカ・トライアルを中心とした独特の研究都市.ひねくれたようで生き生きしたキャラクターも眩しい.ノスタルジーを感じさせる青春×SF,ということで『サマー/タイム/トラベラー』を思い出した.とても電撃文庫とは思えない,ゴリゴリの良いSFなので,皆も読んでみるといいと思いました.