白河三兎 『神様は勝たせない』 (ハヤカワ文庫JA)

神様は勝たせない (ハヤカワ文庫JA)

神様は勝たせない (ハヤカワ文庫JA)

馬鹿になりきっている潮崎は、10番に頭を蹴っ飛ばされながらもボールを離さない執念を見せた。試合前日は、冗談半分で『負けるよ』と言っていた真壁だって、全身全霊で勝利を目指した。
他のみんなだって死にもの狂いで走った。体を張ってゴールを守り、力を振り絞って相手のゴールをこじ開けようとした。
私もそっち側の人間になりたい。白線を跨ぎ、ピッチに立ちたい。
誰に嫌われようが夢中になってサッカーをしたいんだ。

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勝てば首都圏大会の本選へ,負ければ中学校最後の試合となる,中学サッカー県予選の準々決勝.2対2のまま延長線を終え,決着はPK戦に持ち越される.サッカー部の中学生たちは,それぞれの思いと葛藤を抱えながら,最後の舞台に向き合っていた.
「神様は勝ちたくない者を勝たせない」.中学最後になるかもしれないサッカーの試合の最後の最後を描く群像劇.ゴールキーパー兼キャプテン,ストライカー,10番,4番,マネージャー,万年ベンチウォーマー.わずかな時間に圧縮されたなかで,ひとりひとりの鬱屈だったり葛藤だったりの心情を丁寧に描き,あるひとつの出来事を浮かび上がらせてゆく.青春小説で群像劇ではあるけど,語りの手法はミステリに近いのかな.非常にゆっくりと進むので,読んでいておそろしくジリジリさせられた.後半は少し唐突かもしれないけど,群像劇の特徴というか穴というか,そういうのをうまく活かしたラストになっているのかもしれない.