マデリン・アシュビー/大森望訳 『vN』 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

vN (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

vN (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

「こうなることはわかっていたはずだよ」母親の裂けた体から、しゃっくりをするような笑い声が洩れた。
「どうやってもあたしからは逃げられない。おまえの母親だからね」

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フォン・ノイマン式自己複製ヒューマノイド「vN」.vNの女の子であるエイミーは,人間の父親とvNの母親の間で人間のように育てられていた.5歳のエイミーの卒園式の日,エイミーのお祖母ちゃんが卒園式に現れたことにより,一家の日常は大きく変化する.
カナダ在住の女性作家による第一長篇.人間社会で暮らしていたロボットが,己の三原則を失うことで新しい役割を否応なしに割り当てられてしまう,というロボットSF.「フェイルセイフ」(縛りの厳しいロボット三原則のようなもの)の存在とジェンダー・セックスの存在,そして人間社会との関係がvNたちの存在に及ぼす影響を横糸に,そして祖母,母,娘というロボットの血族(?)の確執を縦糸に描いてゆく.vNたちのドロドロした関係を描いておきながらも,グロテスクな各シーンや小ネタがやけにボンクラじみているのが楽しい.というか,読んでみるとあらすじや表紙から想像する以上にボンクラじみたSFであることがわかる.これは間違いなくカナダの長谷敏司(ただし女性)ですわ.プロローグを読んで驚かないひとはいないと思うので,引っかかるところがあったらとりあえず読んでみるといい.なお本国ではすでに続編も出ているとのこと.邦訳されるといいなあ.