神西亜樹 『坂東蛍子、屋上にて仇敵を待つ』 (新潮文庫nex)

坂東蛍子、屋上にて仇敵を待つ (新潮文庫nex)

坂東蛍子、屋上にて仇敵を待つ (新潮文庫nex)

「冗談はともかく、少しだけここで待機していてくれませんか?」
「却下。急いでいるって言ったでしょ」
「そこを何とか」
蛍子は蟹を見るような目を向けた。蛍子は蟹が嫌いだった。人の話をきかないからだ。
「じゃあ、何か面白い冗談言って私を笑わせられたら許可するわ」
「ハッハッハ」と男は古いラジオのような不思議な笑い声を漏らした。「面白い冗談だ」
坂東蛍子はもう一度強めの手刀を決めた。

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坂東蛍子は桐ヶ谷茉莉花が嫌いであった.自分が茉莉花を嫌う理由がわからない蛍子は,殴り合いで決着をつけるべく,果たし状を書く.屋上にて仇敵を待つ蛍子.だがその日,学校では事件が起きていた.
嫌いなものは嫌い,好きなものは大好き.我が道を行く無敵の女子高生,坂東蛍子の活躍を描く,「新潮nex大賞」大賞受賞作の二巻目.森見登美彦涼宮ハルヒをお題にドリフの脚本を書いたらこんなふうになるのではないか,という濃密さを持ったドタバタ劇.非常にねっとりしててくどいんだけどそれが楽しい.三本の収録短篇(+幕間)が,とあるお屋敷,夜の学校,昼間の学校をそれぞれ舞台にしており,決められた舞台と舞台装置を使って完結しているのもドリフのコント風.アニメ化するとすごく映えそうな気がする.いろいろ出てくる中でもせっせと学校の七不思議を演じる怖がりの幽霊とか,テロリストの描写が,エンターテイメントしつつも妙に真に迫ったものなのが印象に残った.明らかに一巻より完成度が上がって面白くなっているので,ちょっとでも気になる所があったなら続けて手に取ってみるといい.