狗彦 『五色の魔女』 (ダッシュエックス文庫)

五色の魔女 (ダッシュエックス文庫)

五色の魔女 (ダッシュエックス文庫)

鉄箱が、加速する。
煤混じりの黒煙を吐き出しながら、石炭車は唸りをあげて疾走する。車窓の外では、大通りの風景が流れ始める。
「速いんだな」
ジャッカルが呟く。
歩けば道端の小石一つ一つに視線を注ぐことができるが、これほど速いと小石どころか人間の顔すら高速で流れ去っていく。当たり前のことではあったが、どこか寂寥の思いを抱いてしまう。
加速し続ける文明が、人並み以上に永く生きてきた魔女を置いてきぼりにしている。ジャッカルにとっては、そんなふうにも感じられた。

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蒸気機関により急速な発展を遂げた国,ヤルングレイプは,「五色の魔女」と呼ばれる五人の魔女によって周辺国から防衛されていた.国の東端を守る“(ゲルプ)の魔女”ことジャッカルのもとに,(シュヴァルツ)の魔女が死んだとの報せが届く.ジャッカルは,鋼鉄の身体を持つ使い魔のスチーマーとともに首都へ赴く.
第1回集英社ライトノベル新人賞特別賞受賞作.いびつな発展を遂げた都市を舞台にした,スチームパンクでファンタジーでゾンビもの.とんがったテーマのチョイスが良いと思う.ただ,ストーリーラインがちょっとスムースではないかなあ.導入のわざとらしすぎる説明セリフとか,新人らしい粗も多い.ケレン味をもっと効かせてくれたらそれほど気にならなかったと思うんだけどね.でも続きが出たら買います.