牧野修 『月世界小説』 (ハヤカワ文庫JA)

月世界小説 (ハヤカワ文庫JA)

月世界小説 (ハヤカワ文庫JA)

人は世界との関係性を取り戻すために、言語を用いた。言語は認識を生み、認識が空間と時間を生んだ。そうすることで、人類は世界から隔絶されながらも生存することが出来た。言語によって世界を再構成することで、人類は生き残ることが出来たのだ。
さて、このように人は世界を、言語化することによって創造してきた。言語化し認識できる世界だけを《世界》と定めた。否、その範囲でしか世界を捉えられなかった。しかしその世界はあくまで言語によって創られた仮想の世界である。そして、それ以外の《真実の世界というもの》を決して知覚できないのが人間なのだ。

Amazon CAPTCHA

2014年,友人とLGBTのパレードを見に来た菱屋修介は,そこでアポカリプティック・サウンドが鳴り響き,天使が舞い降りる瞬間を見る.世界の終わりを目の当たりにした修介は,次の瞬間,自分の妄想の世界である月世界にいた.
言語によって世界を構成する人類と,言語を滅ぼそうとする神(しめすへんのカミ)の戦いを描く.悪夢のようなグロテスクさと不気味さはお手の物.合衆国に占領され,英語が公用語となった架空のニホンを中心とした悪夢的な世界に,重層的に意味が付け加えられていく物語にくらくらしてしまった.読み終わってしばらくぼーっとしていた.オマージュ元となった山田正紀『神狩り』は読んでいないのだけど,個人的には『幻象機械』を連想した.「ニホン」が特別な意味を持つ物語は共通しているし,捉えていた世界が言語によって変わる,という瞬間をはじめて読んだときのあの衝撃を鮮やかに思い出したことです.