三萩せんや 『たま高社交ダンス部へようこそ』 (スニーカー文庫)

たま高社交ダンス部へようこそ (角川スニーカー文庫)

たま高社交ダンス部へようこそ (角川スニーカー文庫)

足型は基本の型(ベーシック)。最初のステップのナチュラル・スピン・ターン、次のリバース・ターン――繋がった。ウィスク、アンド(そして)、シャッセ・フロム・PP――いける!
今までにない感覚だった。
一歩踏み出すたび、心が震える。胸が熱い。湧き上がってくるのは、高揚感。
音楽がすうっと身体に染み込んできて。踏みたいステップが、踏みたいように踏めて。
璃子の身体が、とても軽くて。互いの背中に、まるで翼が生えたようで。
くるりとターン。スピン。滞りなくフロアを舞う二人。

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高校に入学した桧野雪也は,カレーにつられて部員が3人だけの社交ダンス部に入部してしまう.もともと何事にも打ちこむことのできなかった雪也は徐々にダンスの魅力に目覚めてゆく.しかし,部活存続のため,競技ダンス部と競技会で対決することになる.
第20回スニーカー大賞特別賞受賞作.「ラノベ史上初(スニーカー文庫さん調べ)の社交ダンスラノベ」だそうな.プロットだけ抜き出してみると,手垢のついたおそろしくベタなスポ根ラブコメ.なんだけど,ダンス関連の話になるととたんに描写が生き生きしはじめる.作者のダンスへの愛情と知識は確かなものだと思う.身体の使い方とか,教本を見ながらの基礎練習とか,初心者が大会に出るまでのスパンとか,リーダーとパートナーを合わせてカップル(一般的なカップルとはイントネーションが違うらしい)と呼ぶとか.経験者でなければ書けないことを,うんちく過ぎない程度にわかりやすくエンターテイメントに落とし込んでいるし,笑わないクールビューティなヒロインほか,キャラクターにも説得力を与えていた.とても良かったと思います.二作同時でデビューしたそうなので,もう一冊も近いうち買って読みます.