文野はじめ/一ノ瀬トヲル 『(あるいは)SFのある風景』 (ディスカヴァー・トゥエンティワン)

(あるいは)SFのある風景 (ノベライドル)

(あるいは)SFのある風景 (ノベライドル)

原爆か、水爆か、中性子爆弾か、そんなことは知らない。そう、戦争が始まったのだ。世界が終わりに向かって下り始める。僕は何も言えない。何も言えなかった。サラサを見る。驚いたことに彼女は意外な程、落ち着いていた。そして、僕に向き直って絶望的な一言を言い放った。
「全部、あなたのせいね」

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ネットワーク上に出現した「カミサマ」と呼ばれるAIにより,情報が制御されるようになっていた2061年.僕は,個人IDを持たない不思議な少女,サラガネ・サラサに出会った.
江ノ島沖に宇宙エレベーターが就航し,火星に開拓地が存在する,「SF」のある少し未来の世界のボーイ・ミーツ・ガール.検索してみて気づいたのだけど,第2回ハヤカワSFコンテストの一次通過作だったのかな.【序文】から伊藤計劃神林長平へのオマージュを感じるけれど,SF成分はそんなには強くないのかな.世界を統制するネットワークと,それに対抗するもうひとつのネットワークという肝のアイデアも,実はそれほど重要でもない.【後書き】にあるように,あくまで「ただの恋愛の記録」,「社会の少しの理不尽さに嫌気のさした恋人達の僅かばかりの抵抗の物語」を目指していたんだろうな,という気がした.フラットなストーリーに比べてあまり読みやすいテキストではなく,特に並行して語られるふたつの物語,という形式は単にわかりにくくしているだけだったような.