宮澤伊織 『神々の歩法』 (東京創元社)

彼らの敵は、人ではない。
彼らが殺しに来たのは、ある種の神だ。
神の名は、エフゲニー・ウルマノフ。ウクライナの農夫だった男である。
首都から離れた寒村に生まれ、幼なじみと結婚し、娘を二人授かった、信心深い誠実な男。目立つところなど一つもない、善人ではあるが平凡な男。
――かつては、そうであった。
いまはもう、そうではない。
農夫エフゲニー・ウルマノフはもはや存在しない。いまのエフゲニー・ウルマノフは、地上に降りた一柱の狂える神だ。

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第6回創元SF短編賞受賞作.二千万人を一瞬で殺害し,中国を砂漠化させた狂える神を殺すため,合衆国のウォーボーグ部隊が派遣される.ふたつの精神が同居する狂神,それに対するは米軍特殊部隊と少女神.楽しかった.神々の戦いとちっぽけな人間のあがき,みたいなのもそうだけど,キレの良いアクションとテンポよく進むテキストで一気に読んでしまう.
読んだひと全員がツッコんだであろう「少女たちがじゃれ合うアニメが各国兵士のメンタルケアに使われている.過酷な任務から戻った彼らは,架空のアイドルが活躍するアニメを見て涙を流すのだ」という説明は必要だったんですかね.……と最初は思ったのだけど,まあ現代日本だと普通にある話ではある,のかな? なぜそれを選んだのか,とは思うけど親近感が一気に湧くし現代とつながるよね.各選者が巻末の選評で異口同音に言っている「短編の外側に広がっている世界が想像できる」というのがつまりそれなのかな,と思った.Kindleで90円で読めるので,まあ軽い気持ちで読んでみるといい.