山形石雄 『戦う司書と黒蟻の迷宮』 (スーパーダッシュ文庫)

戦う司書と黒蟻の迷宮 BOOK3 (集英社スーパーダッシュ文庫)

戦う司書と黒蟻の迷宮 BOOK3 (集英社スーパーダッシュ文庫)

一人で、鉱山町を歩く。笑いがこみ上げ、漏れ出した。そして止まらなくなった。笑いすぎて涙が出た。涙が止まらなくなった。笑いが止まった後も、どういうわけか涙だけは止まらなかった。
ああ、そうか。わかったような気がする。
これが、母を失うということか。

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ハミュッツ=メセタと並ぶ最強の武装司書と呼ばれるモッカニア.母の喪失と過去の任務の傷によって図書館迷宮倉庫に閉じこもっていた彼が,武装司書にひとりで反乱を起こす.その裏には神溺教団の存在と,ある女性の姿があった.
将来を嘱望されていた最強の武装司書はなぜ図書館を裏切ったのか.彼の心はいかにして壊れていったのかを,丁寧にやるせなく描いてゆく.今回の物語の中心人物であるモッカニアだけでなく,彼を利用しようとする神溺教団の男の存在が物語にさらなる深みを与えていたのだと思う.モッカニアを駒として利用するため,誰よりもモッカニアを理解しようと,心の動きや生まれを熱心になぞる男.その語りと,「母」という共通項が,淡々と描かれる事実に残酷さと説得力を強く植え付けていたのだと思う.また,「迷宮」という場所での戦いの描き方も見事.たかだか230ページの本によくこれだけのものを書いたな,という驚嘆を覚えた.素晴らしかったです.過去の日記を読み返すと,ここまでしか買っていなかったようなので,まずはシリーズの続き七冊をポチったことです.