田中啓文 『イルカは笑う』 (河出文庫)

「このたび、日本における自殺者の急増を受けて、調査研究を行ってまいりましたが、それについてようやくひとつの結論を得ることができましたので、ここに発表いたします。数年前から我が国で極度に自殺者が増えている原因は……異星人の侵略です」

集団自殺と百二十億頭のイノシシ

「あなた……毎日のように人を殺しているけど、罪の意識を感じることはないの?」
「罪の意識? わっはっはっはっはっはっ」
少年は屈託なく笑った。
「俺には野球が全てなんだ。そのためなら人を何人殺したっていいじゃないか。だって……青春だろ!」
少年の言葉には非常に説得力があった。

血の汗流せ

2000年から2012年に書かれた作品を集めた短編集.やあ,面白くてひどい短編集でした.私は筒井康隆の全集を何度も読んで育った者なので,SFとはこういうものなのだ,自分がSFに求めていたものはこれだ! みたいな気づきがあった.地球の霊長となったイルカと最後の人類の対面「イルカは笑う」.本能寺で信長の遺体が見つからなかった理由が語られる「本能寺の大変」.どこかで聞いたようなタイトルのゾンビ料理小説「屍者の定食」.それぞれにひどいのだけど,この本のベストは「血の汗流せ」かな.野球部員の星吸魔が文字通り血の汗を流す野球小説(?).怒涛のダジャレと飛躍しまくるストーリーがほんと最高でした.