神西亜樹 『坂東蛍子、星空の下で夢を語る』 (新潮文庫nex)

坂東蛍子、星空の下で夢を語る (新潮文庫nex)

坂東蛍子、星空の下で夢を語る (新潮文庫nex)

望月嗚呼夜曰く、「人間は探偵にはなれない」。その言葉が本当ならば、これから挟まれる描写には何の意味もないのかもしれない。しかし入夏今朝は「努力に終わりはないが、意味はある」と言っている。ならばたとえ彼らが入夏の居場所を解き明かせなくとも、彼らの推理に敬意を払うことは必要なはずだ。ここで彼らに時間を割くことは決して愚かなことではないのである。
ちなみに坂東蛍子はもっと良い言葉を残している。「さっさと話を進めなさい」だ。

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林間学校の準備のため,新しい商業施設“バベル”を訪れた坂東蛍子.彼女を待ち受けていたのは,超ウィザード級ハッカーの望月嗚呼夜からの殺人予告だった.それを止めようとする友人たちともうひとりの超ウィザード級ハッカー入夏今朝だったが,蛍子はそんなことはつゆ知らず,勝手な思惑で動き回るのであった.
“疾風怒濤の女子高生譚”こと「新潮nex大賞」大賞受賞作の完結.舞台コントみたいなドタバタ群像ミステリ.ミステリのひとに渡すとこれはミステリではないと言われそうな気もするが.宇宙人とかロボットとか超ウィザード級ハッカーとか出てくるし.
前半は商業施設,後半はある山荘.一話ごとにひとつの舞台で完結しているのが舞台コント感を出している.ここは長所でもあり短所でもあるのかな.ドタバタしたカオスや群像劇をスマートに演出し,完成させている反面,その外側の世界の広がりは,頑張っているものの,やや弱い気がした.まあ作者は平成生まれで若いし,今後も期待できるところも多い.なんだかんだと楽しませていただきました.