下村智恵理 『エンド・アステリズム 2 変転する二重運命系からの逃避行』 (スーパーダッシュ文庫)

だが、五雁の歩みを進ませるのは欲求ではない。もっと原始的で抗しがたい作用だ。言うなればそれは、西部劇的な男の不条理、あるいは知性と異なるところにある純粋な意志なのだ。
カウボーイ気取りかと笑うかに見えて、茉莉衣は笑わなかった。多分、映画だからだ。映画とは人生であり、人生とは映画。彼女はそれに反論しない。
いってらっしゃいと言って、彼女は背中を押してくれた。

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夏休み.最初の戦いによって半壊した渋谷を訪れた五雁は,以前のクラスメイトだった佐々原に再会し,そこで〈リジェンタイル〉に書き換えられたはずの過去が変化していることに気づく.
東京湾に現れた新たなる〈ディセンター〉との戦い,そして女装少年灯麻伊織とのもうひとつの内なる戦い.ポエジーというか,かっこつけたハードボイルドな文体が非常に特徴的.哲学者や文学作品のタイトルを引用した言い回しが鼻について回りくどい一方で,思春期の危うさみたいな綱渡り感を出すことに成功していると思う.その危うさが意図したものなのか,いまいち断言しかねるのだけど,冲方丁のクランチ文体を取り入れたり,独特のルビ付き用語を多用したり(完全素子(フェクトロン)物質の無差別的同一化機関(ロスト・アイデンティファイ・エンジン)など),いろいろやってみようという意気は感じる.言い回しに底の浅さが見えてイライラすることもまあ多いんだけど,見るべきところも多い,と思う.主人公の五雁とふたりのヒロイン(うちひとりは女装少年)の間にあるものの描き方,差別化は良かったと思う.女装少年である伊織を一貫して「彼女」として扱い,ぞんざいにしないところも受け入れやすい.できればもうちょっと読んでみたい作品だったのだけど,2016年1月現在で続きも新作も出ていないようなのが残念.