石川博品 『菊と力』

道場の外に出ると、彼女は右手でグリップを反時計回りに約一〇度捻りこんだ。左手でスカバードを握り、親指でセーフティレバーを押して、ブレードを開放する。スカバード内部のインジェクティングスライドが抜刀をアシストする。ベルト側のオペレーティングジョイントが後退しながら回転する瞬間に、肘と手首をしならせて一息に抜きつける。
左手を柄頭(グリップエンド)近くに添えると、もう意中の構えだった。

石川博品のおしゃべりブログ: 夏コミ新刊入稿しました@夏コミ金曜日・東ヘ-49b

敗戦を経て,帯刀の権利が認められるようになった現代.殺された仲間の仇と奪われた剣を追う当真整刀流の天才剣士忌井更子,真剣を渇望する不登校の三上カズサ,カズサの友人で鬱屈した学校生活を送る住吉霧哉.三人の運命が交錯するとき,武蔵坂上に血の雨が降る.
2015年の夏コミC88で頒布された青春小説.導入でオルタネートヒストリーな感じなのかと思ったら,青春ギャング小説でした.アメリカと銃とドラッグを,日本と刀と煙草に置き換えたと言うとわかりやすいかな.暴力装置だったり,ファッションだったり,力の象徴だったりする,現代風に進化してきた刀.そんな刀を道具として,あっさりと殺し殺される青春.クソみたいな綱渡りをして,つまらないことで間違えて,命さえあっさり投げ捨てるという青春の極北を,ヒリヒリととてもみずみずしく描いている.さすがの技量だと思う.良いものでした.