喜多見かなた 『されど僕らの幕は上がる。 Scene.2』 (スニーカー文庫)

「なぁ、俺に……俺達に、あのとき何があったんだよ?」
「……おもしろかね、記憶って。これだけ話しよっても、肝心なことは全然、思い出せんっちゃもん。よっぽど効いたっちゃろうね、涼太。すごい素直やったけん」
肝心なこと? 効いた? 素直?
また意味の分からない言葉が増えていく。苛立ちのあまり、つい声が尖ってしまう。

されど僕らの幕は上がる。Scene.2 (角川スニーカー文庫) | 喜多見 かなた, 白身魚 |本 | 通販 | Amazon

個々のキャストに用意された「設定」と七年前の新幹線爆破事件の謎,失われた事件の記憶,忘れられた「約束」…….
リアリティ番組「シェアハウス」に集められた七人のキャストの同居生活の終わりを描く二巻.青春ミステリというか,青春サスペンスというのかな.ミステリ系のレーベルから出ていたらもっと注目されていたはず.七年前の事件の謎を軸にぐいぐい惹きつけられるし,それ以上に各々のキャラクターの魅力や,大人や社会を見る視点がとてもいきいき描かれる.と言っても,ミステリとしては正直言って穴が目立つので,評価しないひとはしないかもなあ.特に後半はかなりの駆け足で畳もうとしているように見えた.もう一巻使ってくれればさらに良いものになったのではないかな.
しかし,主人公たちを表す「さとり世代」っていい造語だよなあ.“衰退するこの国の最期を看取る世代という意味らしい。「ゆとり」でも「さとり」でもなく「みとり」。”.現代そのものでもなく,まったく架空の社会でもない作品世界の位置を,一言で表現していると思うのだ.力のあるひとであることは間違いないので,今後も追いかけて行きたいです.