新八角 『血翼王亡命譚 I ―祈刀のアルナ―』 (電撃文庫)

彼女はそれから五年、第百三十二代赤燕の国(レボルガ)王位継承者アルナリス=カイ=ベルヘス第一王女として生活し、俺は第百三十二代護舞官ユウファ=ガルーテンとなるため、修練に励むこととなる。
しかし、これから始まるのは一人の王女と一人の護舞官の物語ではない。
これは言葉を話せない彼女と言葉を話せる俺の物語なのだから。

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護舞官候補のユウファは,五年ぶりに王女アルナリスに再会する.王族の成人の儀である「迎燕の儀」のため,赤燕の森に向かった彼らに,謎の集団が襲いかかる.
第22回電撃小説大賞銀賞受賞作.日本とも中国ともつかないオリエンタルな世界を舞台にしたファンタジー.小説としての巧拙で言えば明らかに拙ではある.流れるような描写がある一方で,説明調のセリフがむちゃくちゃ多い.文章にも情報量にもすごくムラがあるし,伏線の張り方もうまくない(というか張れていないと思う).
それでいて,独自の骨太な世界の片鱗が見えるのはすごいと思う.燕によってつくられた国,血に取り込まれた言葉「言血」,言葉を発せず赤燕に代弁させる王女.他に類を見ない世界は非常に魅力的.その世界に惹かれて,それだけで一冊を読みきってしまった感じ.なんだろう,書きたい物語や表現したい世界に,技術がまったく追いついていない感というか.あまり見ない感覚ではある.
ライトノベルのファンタジーにありがちな,ありものから名前だけ変えただけではない,骨太の世界を確かに感じた.最初の100ページくらいが普通に辛いので,そこで脱落する読者もいるかもなあ.20年後くらいに全面加筆訂正したらすごい傑作になるんじゃないかな,というのは半分冗談だけど半分本気で思う.いずれにせよ,期待しております.