深沢仁 『英国幻視の少年たち ファンタズニック』 (ポプラ文庫ピュアフル)

「冷たい手をしとる」
ランスは一瞬だけ微笑んだ。
「すみません。放したほうがいいですか?」
「いいや……。ただ俺は、天使の手はあったかいもんだろうと思ってた」
「残念ながら、僕は天使ではありません」
「死にかけた老人の言葉を信じるやつが、ほかにいるか?」
「ここにいます。まだ、怖いですか?」

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イギリスのウィッツバリーという街で大学に通う皆川海は,ある日妖精を目撃する.その場に現れた青年,ランス・ファーロングは,妖精や精霊といった幻想的生命体を扱う英国特別幻視取締報告局の一員であるという.ランスは海に,妖精を追い払うには名前をつけてやるといいとアドバイスを送る.
タイトルの「ファンタズニック」とは,幻想的生命体に遭遇した人々が陥るパニック状態のこと.東京創元社から出ている翻訳ジュブナイルのような,独特の雰囲気のあるファンタジー.イギリスを舞台にした妖怪ものと言えるんだけど,本当に雰囲気が良い.デビューのときから持っていた冷静で落ち着いたテキストが,作品のテーマときれいに噛み合った印象がある.冷静なようでいて,キャラクターの描写は細やか.ある秘密を抱えながらもどこかぼんやりした印象の海と,いつも貧血で倒れているけれど優しさをしっかり感じさせるランスという,似たものコンビをニヤニヤしながら読んだり,鉛筆サイズで「す、す、す」と笑う妖精スーも可愛らしい.カバーイラストと公式のあらすじで気になったのなら期待に応える作品になっていると思う.良かったです.