中沢健 『初恋芸人』 （ガガガ文庫）

初恋芸人 (ガガガ文庫)

掃除をやめて、ボクはDVDの並んだ棚から第一作目の『ゴジラ』と『ウルトラマンティガ』の最終巻を取り出す。恋愛映画のDVDを一本も持っていないボクは、男女の恋愛が描かれたシーンのあるゴジラ映画やウルトラマンのDVDを観て、好きな男性と一緒にいるときの女性の表情がどういうものであるか学ぼうと考えたのだ。

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25歳のボクこと佐藤賢治は怪獣オタクで童貞の売れない芸人．ある日，先輩のステージに上がったボクは，舞台を見に来たひとりの女性，市川理沙と知り合いになる．しかし，元いじめられっ子で恋愛経験ゼロのボクには彼女とのつきあい方も距離のとり方もわからない．この初恋の行方やいかに．
現在放映中のドラマの原作である恋愛小説．NHKドラマの原作がガガガ文庫から出るというのも面白い．ドラマは見れないんだけど，画像を見る限り，柄本時生は佐藤くんを演じるために生まれてきたんじゃないかというレベルでハマっているな！
内容の方は，良い意味でとてもつらい．何が進行しているのか，語り手のボクにわからない時間が長いため，読んでいてストレスが溜まりやすいのだけど，わかってしまうと……．ボクと市川さんという，実は似たもの同士のすれ違いとか，友だちがいなさすぎて他人の気持ちがまったく汲み取れないボクの様子とか，つらいとしか言いようがない．素直に楽しいとはとても言えない作品だけど，共感できるひとはどっぷりと共感してしまう小説ではなかろうか．