さがら総 『変態王子と笑わない猫。11』 (MF文庫J)

(ぼく)がウソをつくはずがない。
当時の横寺少年はなにより正直だった。世界の遠く険しい断崖に、率直な想いだけを持ってぶつかる強さがあった。
上っ面のくだらない言葉を塗り重ねて、ふざけて本心を包み隠して、なにもかもをごまかしてしまう今のぼくよりもずっと優れた人間だ。
ぼくはぼくを信じないけれど、ぼくのなかのぼくのことは信じる。

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猫神の力によって,10年前の世界の自分にタイムリープしてしまった横寺と月子.ふたりは,月子の母親であるツカサに真実を打ち明ける.未来のみんなを幸せにするため,過去改変を目論むふたりであったが.
タイムリープと過去改変によって,鋼鉄さんにかかった短命の呪いを回避するのだ.語り手なのに,どう見ても本心を語っていない「信頼できない語り手」横寺くんの,皮肉と自己犠牲がひとつの結果を生む.この巻のクライマックスまで読んで,はじめてオスカー・ワイルドと「幸せな王子」がモチーフになっていることが納得できた.遅いというか鈍い.
特に良かったのが,主人公の初恋の人でもあるツカサさん.「聖人でもなく,よく出来た大人でもない,どこにでもいる母親」なんだよなあ,ほんとに.しかし,幼女になった月子ちゃんや鋼鉄さんの幼女っぷりの描写が長い.かわいいのはわかるけど,話を引き延ばしている印象を受けてしまう.そこだけ惜しかった.