小林泰三 『ウルトラマンF』 (早川書房)

「被験者の頭部についている装置は何?」
「あれが今回の実験の目玉です。あの装置の一部は頭蓋骨を貫通して、大脳皮質の中に挿入されています。前頭葉を直接制御する試みなのです」
「そんなことをして大丈夫なの? いろいろな意味で」
「どういう意味かはわかりませんが、怪獣から抽出した血清を人体に注入している時点で大丈夫ではありません。いろいろな意味で」

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「あなたが早田であるはずはない」光弘は言った。「以前にもあなたはその姿で僕の前に現れた。あなたは……ウルトラマンですね」

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ウルトラマンは地球から去った.科学特捜隊の井手たちは,対怪獣用特殊装甲の開発と同時に,早田進の肉体の解析を進めていた.その実験の際,かつてメフィラス星人の仕業で巨大化させられた富士明子隊員が,再び巨大化してしまう.
ウルトラマンが去った後の地球に,新たな光の戦士が現れた.『ウルトラマン』と『ウルトラセブン』の間の時代を舞台にした,新しいウルトラマンの物語.小林泰三ウルトラマンと言えば『ΑΩ』だけど,巨大フジ隊員をフィーチャーするならあんなひどいことにはなるまい,と思って読みはじめたらもっとひどかったという.怪獣の細胞を利用した巨人兵士を始めとした,悪趣味というか外道さが炸裂している.ブルトンやバルンガの細胞を利用した兵器や,わりといい加減な描写で破壊されてゆく大阪,名古屋,京都が妙な味を出しているのも,実にこのひとらしいというか.終盤に向けて,ちゃんとヒーローものになることにむしろびっくりした.出番は少ないながら,強い正義感を示す早田の存在感が効いている.ゴモラジャミラ,ビースト・ザ・ワン,巨大ヤプール,Uキラーザウルス,そしてウルトラマンに激しい憎悪を抱く闇の巨人といった怪獣たちも,それぞれ個性を発揮している.楽しゅうございました.